どこかの本

誰かのお話かもしれません。それが誰なのか、私達は知ったところでどうすることもできないのでつまりそういうことです。

悪魔

「貴方は音楽をやっていなきゃ、何もなかったんだからね」

急に振り落とされた言葉
鈍器で殴られたようだった、
心臓が潰されるようだった。

「でも音楽だけじゃご飯は食べれないから、やめたんでしょう?うん、ちゃんと勉強しなさいね」

ああ、優しい言葉は聞こえない
君は此処にはいない
身内の笑い声が聞こえる
私ひとりが俯いていた
たまらなかった
堪えたはずの涙が、落ちていた。

「ちょ、何で泣くの?勉強が嫌なの?」

"あら"  "どうしたんだ"  "嫌なの?"
身内は無機質な手で私の頭を撫でる
その手には何もない、
私へ向けられたものなど、何も。


「違います、大丈夫です。頑張ります」


私は皮肉にも、それを言葉にした。
奥歯を噛み締めて、力を込めすぎた手が震えて、爪が食い込んだ。
それでも口角をつりあげた。

この人達は知らない
私の言葉なんて、
知ろうとしない。


「そう、頑張って。期待してるのよ」


悪魔が笑う
私の心臓を握って、


「はい。」



私も笑う
震えた声で、返事をして
君のことなど、頭から消そうとした

君の優しい言葉で
また、泣いてしまうから。

消去

全部なくなればいいと思った
消えて、もう存在しなければいいって
何が。とかじゃなくて、
全部が。

何でそう思ったのかとか
どうしてそう考えてしまうのかとか
そんなのは、どうでもいい

自分だけ消えるとかだと、なんか悔しいから、丸ごと全部消えればいい

ありえなくもないと思うけれど、可能性は低い

それでも、
そうしたら、そうしたら。
もし、そうなったとしたら、


私以外で、誰か喜ぶんだろうか。



大勢の人が悲しんで、恨んで、泣いて、
神様なんでって言うんだろうな



今まで、見ないふりを続けたくせに。




なくなればいいよ。こんなの。

君の世界

「雨、止まないね」

殺風景な部屋
気温の低い夜
特別何をするわけでもなかったけれど、
ただゲームして、くだらない話をした。
お互いに気を使う仲でもなかったし、
眠くなるまで携帯を弄った。
気づけばあいつは窓を見ていた
部屋の大きな、カーテンのしまっている窓を。
何が見えるわけでもないそこを見つめては、
あいつはとうとう口を開いたのだ

私はその言葉につい窓を見たが、
やっぱり何もないし、何も聞こえない。

その時に私があいつを笑わなかったのは、
あいつの見ている世界と、
私の見ている世界が違うものかもしれないと
一瞬でも思ったからだ。

あいつは今でも外をよく見る
授業中も休み時間も、何処かを見つめては遠い何かを見つめるのだ

「雨、酷いね」


私はあいつの見る世界を知らない

周りが笑って、
君が不思議そうに首を傾げても、

そこには青空しか、広がっていないから。

伝言

伝えられない苦しさが
声に出せない悲しさが
どれほどなのか、知りました。

たくさん言いたいことがあるのに、
それを声に出すことが出来ずに、飲み込んでは呼吸が不自然に早くなりました。
伝えたいことがあって、それを言いたいはずなのに何故か言えずに、泣いて困らせてしまうことしかできませんでした。

「ごめんね」

そんな言葉は良く出る癖に

「いいの、わかってるよ」

そうやって、あなたが言うから



愛してる、大好きよって言えないままです。

大好きな人

大好きな人に憧れてはいけない

それはきっと、嫉妬に変わるから。


大好きな人を愛してはいけない

それはきっと、否定に変わるから。


大好きな人に嘘をついてはいけない

それがその人のためだとしても。


あなたは変わってはいけない

大好きな人になろうとしてはいけない

あなたとその人は違うのだから。



大好きな人と共にいてはいけない

あなたが永遠にその隣を望むのなら。




大好きな人を壊してはいけない
どんなに振り向いてくれなくとも。

大好きな人の幸せを僻んではいけない
その人があなた以外を好きになったとしても。




大好きな人を嫌いになってはいけない
大好きな人なら。


どんなに歪であろうとも
その感情に気づくことがなくとも



あなたは大好きでいなければならない

一度好きになったのなら。

他人事

私は知らない
君の傍から離れて行く人達を眺めるだけのその心情を。

君は知らない
自分から離れて行く人達の心情を。

誰も知ろうとはしない
他人の心情など。


いつも泣いてばかりなのが証拠だろう。