どこかの本

誰かのお話かもしれません。それが誰なのか、私達は知ったところでどうすることもできないのでつまりそういうことです。

悪魔

「貴方は音楽をやっていなきゃ、何もなかったんだからね」

急に振り落とされた言葉
鈍器で殴られたようだった、
心臓が潰されるようだった。

「でも音楽だけじゃご飯は食べれないから、やめたんでしょう?うん、ちゃんと勉強しなさいね」

ああ、優しい言葉は聞こえない
君は此処にはいない
身内の笑い声が聞こえる
私ひとりが俯いていた
たまらなかった
堪えたはずの涙が、落ちていた。

「ちょ、何で泣くの?勉強が嫌なの?」

"あら"  "どうしたんだ"  "嫌なの?"
身内は無機質な手で私の頭を撫でる
その手には何もない、
私へ向けられたものなど、何も。


「違います、大丈夫です。頑張ります」


私は皮肉にも、それを言葉にした。
奥歯を噛み締めて、力を込めすぎた手が震えて、爪が食い込んだ。
それでも口角をつりあげた。

この人達は知らない
私の言葉なんて、
知ろうとしない。


「そう、頑張って。期待してるのよ」


悪魔が笑う
私の心臓を握って、


「はい。」



私も笑う
震えた声で、返事をして
君のことなど、頭から消そうとした

君の優しい言葉で
また、泣いてしまうから。