どこかの本

誰かのお話かもしれません。それが誰なのか、私達は知ったところでどうすることもできないのでつまりそういうことです。

2015-01-01から1年間の記事一覧

夜の鳥

死にかけたコウモリを拾った友人がいた。何をするわけでもなかったが、餌を少し分けて小さな頭を撫でた。コウモリはどんな病気を持っているかなんて分かりゃしないし、そもそも安易に触って良いものではない。それでも友人は静かに撫でた。真剣に、大事に。…

花と彼女

いつででも、彼女は私に花束を差し出した。それはそれは見事な花束だった。優しく目を細め、はにかんで私の前に差し出す彼女はこれで何回目になったのだろうか、それすらも忘れるほどに何度も彼女の笑顔を見ている。優しい色をしたその表情が私と正反対で気…

原因

彼女もきっと、逃げたのでしょう。消えない傷痕に目を背け、何処へ行けるわけでもなく、消えてしまいたかったのでしょう。それは珍しい事なんかではなくて、よくある話なんですから不思議なものです。泣いている彼女から逃げたのも、きっと珍しい事ではない…

不死身の門番

滴る雨も知らず、そこに彼は立っていました。逆さの夕日を写したその瞳、何を見るかはもう誰も知らないことです。廃墟と化した神殿の前、ただ、そこにいます。何も語らぬその口は人形のよう。誰もいなくなった空白の歴史の中、橙色は主の消えた王冠を手に、…

「好きな飴をあげる!」赤い飴と、青い飴と黄色い飴。 どれかひとつだけあげる。 でも、みっつの中で一つだけ、ハズレがあるから注意して選んでね。「じゃあ、赤い飴を貰おうかな」はい!と飴を手のひらに乗せた。「運がいいんだね!」 ハズレよ!と楽しそうに笑っ…

堕ちて

「どうか、お願いです」人が自身の両手を握り胸の前でどこかにいるらしい神に祈るのは、もはや宗教的なもの。 でも感情があり、心を知る人間ならば願わずにはいられないのだろう。 唱えるだけで叶えてくれる便利な存在がいると信じるならば。 叶わぬ欲の吐き溜…

輪廻

「こんな時代に生まれてくるなんて」国を守るために武器をとれと、お偉い方々が。 国民を守れないで何を守るというのか。 最後の最後まで降伏しなかったのは。 お偉いさんの何を守ったっていうんですか。戦争を免罪符に同情なんかして、なのに真面目に少しだけ…