どこかの本

誰かのお話かもしれません。それが誰なのか、私達は知ったところでどうすることもできないのでつまりそういうことです。

花と彼女

いつででも、彼女は私に花束を差し出した。
それはそれは見事な花束だった。
優しく目を細め、はにかんで私の前に差し出す彼女はこれで何回目になったのだろうか、それすらも忘れるほどに何度も彼女の笑顔を見ている。
優しい色をしたその表情が私と正反対で気にくわなかったのだろう。
そんなくだらない理由でその花束を叩き落としたのだ。
そんな私に彼女は何も言わず拾い集め、ひたすらに謝ったのだった。
私は理解出来なかった。

「何故、何度も花束を渡しに来るのか」

一度聞いたことがあった。
彼女は下を向き、もう一度顔を上げると恥ずかしそうにはにかんで、

「じゃあ、どうして貴方も受け取りに来るの?」

豆鉄砲をくらったような顔をした私を貴方は笑ったのだった。

そうして彼女は続けて言った。

「私は貴方にこれくらいのことしかできないわ」
「だから、貴方が来るのを待ってるの」

受け取って、その花の匂いと名前を伝えに来てくれるのを待ってるの。

踏みにじられたって、叩き落とされたって。





「ありがとう」

そう言ってくれるまで。