どこかの本

誰かのお話かもしれません。それが誰なのか、私達は知ったところでどうすることもできないのでつまりそういうことです。

原因

彼女もきっと、逃げたのでしょう。
消えない傷痕に目を背け、何処へ行けるわけでもなく、消えてしまいたかったのでしょう。
それは珍しい事なんかではなくて、よくある話なんですから不思議なものです。
泣いている彼女から逃げたのも、きっと珍しい事ではないと。
言葉にすることもできない彼女は"うぅ、うぅう"と、うわ言のように漏らすだけ。
それでも、私だけは理解できるのですが、もうそれもどこにもいないので、彼女の言葉は何処へも届きません。
悲しい、苦しい、助けて欲しい。
誰でも感じる負の感情がひとりの人格を壊して、消え入るようにそれもなくなるのです。
私以外の者に"大丈夫か"と声をかけられた日にはその手を振り払って絶叫を上げながら逃げることでしょう。
だから私は逃げなかった。
その理由も、もう誰も知りません。
本当に絶叫を上げたいのはこちらの方でしたのに彼女は傲慢にも先に声を貼りあげたのですから、それはそれは悔しかった。

それだけなんですがね。