どこかの本

誰かのお話かもしれません。それが誰なのか、私達は知ったところでどうすることもできないのでつまりそういうことです。

不死身の門番

滴る雨も知らず、そこに彼は立っていました。
逆さの夕日を写したその瞳、何を見るかはもう誰も知らないことです。
廃墟と化した神殿の前、ただ、そこにいます。
何も語らぬその口は人形のよう。
誰もいなくなった空白の歴史の中、橙色は主の消えた王冠を手に、かつて忠誠を誓った者の帰りを待ち続けます。
「帰ってきて下さい」彼が一言言いさえすれば灰になった王家は直ちに彼の元へ再び集うことでしょう。
きっとそれをしないのは、錆びていく金色の口は開かぬものと成り果てたからでしょう。それと共に乾いた夕日は地につかず、帰ることもできずそこに存在するだけで、それは力強くこの世のものです。
この美しいオレンジを写した神殿の玄関で、一番に貴方様を迎えることができるのは自分しかいないのだと、門番は誰も知らぬ神殿の前、歴史にも残らぬその狭間に王の帰りを待ち続けるのです。
もう未来永劫、気付かれることのないその場所で不死身の門番、これを望む。
ええ、ええ。彼だって足元の骨屑くらい見えていますとも。
どんなに夕日で視界が掠れように、彼が知り得るのは笑う王様だけですから、それも、もう誰も知らないことです。